
有限会社ジャムティガ 代表/コンサルタント
堺 雅人さんをはじめとする豪華な俳優陣に加え、個性的な登場人物が次々と現れる『VIVANT』。このドラマを毎回楽しみにしている私ですが、なぜこのドラマがこんなに魅力的なのか、最終回を前に改めて考えてみようと思いました。
堺さんの一人3役の役柄、乃木 憂助・F・劉銘軒のとがった個性とそれを演じ分ける卓越した演技力。何か国語もの長いセリフを覚えるだけでもさぞやご苦労なさっていることでしょう。さらに有名、無名に関わらず登場するたくさんの登場人物を演じる俳優さん達の演技力と演出。チョッキーやドラムのように、一度見ると忘れられないキャラクターの存在。そして、登場人物の一瞬の言葉やちょっとした場面が次回の展開につながる鍵という仕掛け。時には味方か敵か、敵か味方かといった混乱。さらに、世界各地を舞台にしたスケールの大きさ。それに何度も目をそらせた残虐なシーンもありました。しかし、それでも次の展開を見ずにいられないのは、福澤克雄監督の巧みな演出に、すっかり引き込まれているからなのでしょう。
2026年11月8日には第2シーズンの最終回が予定されています。結末が気になるところですが、その前に、経営者の視点からこのドラマで感じたことを企業経営に置き換えてみたら、という視点でまとめてみたいと思います。
主役だけでドラマは成り立たない
乃木 憂助を演じる堺 雅人さんの演技はもちろん大きな魅力です。しかし、その周りにいる登場人物たちの魅力にも私は大いに目を引き付けられました。恐らくこれは俳優さん達ひとり一人の努力もそうでしょうが、画面には出てこない裏方のスタッフも優秀なのだと思います。ドラムには独特の面白さと存在感があり、チョッキーの可愛さにも惹かれます。俳優の知名度だけでは語れない独特の魅力を感じる番組だというのが『VIVANT』の強い印象です。
このドラマを企業に置き換えたとしたら、経営者や幹部のように目立つ立場の人だけで企業が成り立っているわけではないというのに気づきます。多くを語らなくても取引先の変化をよく見ている人、数字の間違いにいち早く気づく人、困っている同僚を自然に助ける人がいます。そして、その会社と良好な取引をしている取引先やお客様がいることで、会社が成り立っているということです。
経営者は、そのような事業環境をきちんと認識しているでしょうか。
従業員の「輝く部分」を見つけているか
従業員の能力は、現在担当している業務や会議での発言だけでは測れません。人前で話すことは苦手でも、顧客の不満や要望に丁寧に耳を傾けられる人がいます。また、営業成績は目立たなくても、業務を整理してミスを減らすことに優れた人もいるでしょう。さらに、自己管理を徹底し、ほとんど欠勤することなく安定して働き続ける人もいます。
このように、従業員はそれぞれ異なる強みや個性を持っています。しかし、経営者が「この人はこういうタイプだ」と決めつけてしまうと、本来持っている能力や可能性を見落としてしまうかもしれません。
従業員の才能や適性を見つけるためには、ときには別の部署や業務を経験させたり、普段とは異なるメンバーとチームを組ませたりすることも有効です。そうした経験を通じて、これまで見えていなかった強みが発揮されることもあります。
従業員一人ひとりの優れた部分を見出し、その能力を活かせる仕事や役割を与えることは、経営者に求められる重要な役割です。人材の可能性を引き出せるかどうかが、組織の成長を左右すると言っても過言ではないでしょう。
事業もまた、二転三転する
『VIVANT』の魅力の一つは、予想していた展開が突然変わることです。経営も、計画通りに進むことばかりではありません。好調な時期には受注が増え、売上も利益も伸び続けるように感じることがあります。しかし、市場や顧客の事情が変われば、少しずつ業績が悪化することもあります。
経営者の肩には、そんな変化の中で会社をどの方向に進めるのか、という判断が乗っています。重要なのは、最初の計画を守り通すことではなく、状況が変わった時にはそれをいち早く察知し、戦略を見直し、柔軟に対応することです。

変化の時に頼れるのは、多様な能力
売上が急増した場合には、営業担当者だけでなく、生産や納品、さらには資金繰りを支える人材の力も欠かせません。一方で、業績が低迷した場合には、顧客ニーズの変化を読み取り、データを分析し、現場の知恵や工夫を活かして課題解決につなげる力が求められます。
このような変化の局面だからこそ、多様な能力や異なる個性を持つ従業員の力を結集することが重要です。
そのためには、日頃から従業員一人ひとりの得意分野や強みを把握し、必要な場面でそれぞれが能力を発揮できる組織づくりを進めることが大切ではないでしょうか。
人材育成・適性の発見
社員の隠れた能力を見つけるには、日頃の仕事ぶりを観察するだけでなく、普段とは違う役割を試してもらうことも有効です。例えば、次のような機会が考えられます。
| 従業員に見られる特徴 | 試してみたい役割 | 確認すること |
|---|---|---|
| 口数は少ないが観察が細かい | 顧客の声や現場の改善点の整理 | 課題の発見力 |
| 数字や手順に強い | 集計・原価・業務フローの見直し | 正確性と改善提案 |
| 周囲から相談されやすい | 新人の支援やチーム内の調整 | 傾聴力と協調性 |
| 新しいことに興味がある | 新サービスの企画・検証 | 発想力と実行力 |
従業員の個性を理解し、本人の能力を発揮できる配置ができたとしましょう。しかし、それだけで生産性は上がるでしょうか?
なぜ、信じていた従業員に裏切られることがあるのか
ドラマ『VIVANT』では、阿部 寛さん演じる警視庁公安部の野崎が、シンシーのエージェントになろうとした動機に「お金」を挙げる場面があります。これは野崎の本音ではないようですが、乃木やドラムは「まさか、あの野崎さんが」とショックを受けます。
近年では企業選びにおいて「やりがい」を重視する人が増えている一方で、待遇が十分でなければ優秀な人材を確保しにくいという現実もあります。
従業員は自分の能力や成果による公平な待遇を望んでいます。「企業からの評価に納得がいかない」「成果に見合う待遇をしてくれない」といった不満がつのると、最終的には転職する従業員もでてきます。
従業員の勤務態度や能力、業績などを評価し、その結果を賃金や処遇に反映する企業の制度を人事考課といいます。
人事考課は、「何を評価するのか」という基準を明確に示し、公平性を確保することが重要です。評価方法としては、「目標を何%達成したか」といった数値で測定できる定量評価に加え、「努力が感じられる」「顧客対応が丁寧である」といった数値化しにくい定性評価も取り入れることが望ましいでしょう。両者を組み合わせることで、より納得感のある評価につながります。
職業能力評価基準と人事考課
厚生労働省の「職業能力評価基準」は人事考課の判断材料として利用することができます。
| 項目 | 職業能力評価基準 | 人事考課 |
|---|---|---|
| 目的 | 仕事に必要な能力を明確にする | 社員の成果・能力・勤務態度などを評価する |
| 評価対象 | 知識、技能、職務遂行能力 | 成果、能力、行動、勤務態度など |
| 主な用途 | 人材育成、適性把握、配置、採用、人事評価 | 昇給、賞与、昇進、配置、人材育成など |
| 位置づけ | 評価のための基準 | 社員を評価する仕組み・運用 |
特に中小企業では、経営者が従業員一人ひとりの仕事ぶりを直接見る機会が多くあります。これは、大企業にはない強みの一つといえるでしょう。
一方で、経営者との相性や、発言の機会が多い人、目立つ人に対する印象が評価に影響してしまう可能性もあります。そのため、人事考課では評価の公平性を保つことが重要です。
公平で納得感のある評価を実現するためには、上司による評価だけでなく、従業員同士による評価や自己評価など、さまざまな視点を取り入れる工夫も必要ではないでしょうか。多角的な視点から評価を行うことで、より客観性の高い人事考課につながります。
従業員の能力を引き出すのも経営者の仕事
『VIVANT』では、別班の優秀な工作員である乃木が、大きな葛藤を抱える場面があります。シンシーに拘束されている仲間の工作員を救出したいという思いを持ちながらも、別班のトップである櫻井司令からは「救出は行わない」という厳しい判断が下されます。仲間を見捨てるようにも思える決定に、乃木は強い迷いを感じます。
しかし、そんな乃木の背中を押したのが、会社では上司であり、別班では先輩でもある長野専務の存在でした。長野専務は乃木を厳しく叱咤し、その能力と責任感を信じて行動を促します。その言葉によって奮い立った乃木は、自ら道を切り開こうと決意し、テントのトップであり実の弟でもあるノコルに協力を要請します。
このエピソードは、組織における人材活用の重要性を考えさせてくれます。優秀な人材であっても、一人で力を発揮できるとは限りません。迷いや葛藤を抱えたときに、その人の能力を信じ、適切な言葉で励まし、挑戦する機会を与える存在が必要です。
経営者の役割も同じではないでしょうか。従業員の能力を評価するだけでなく、一人ひとりの可能性を信じ、その力を発揮できる環境を整えることが求められます。時には背中を押し、時には新たな役割を任せることで、本人も気づいていない強みが引き出されることがあります。
従業員の能力を引き出し、組織全体の成果へとつなげること。そこにこそ、経営者の重要な仕事の一つがあるのではないでしょうか。

まとめ|会社には、まだ知らない主役がいる
『VIVANT』を見ていると、魅力的な登場人物が一人増えるだけで物語が豊かになることを感じます。会社も同じかもしれません。普段は地味に見える従業員が、役割を変えた途端に輝き、思いがけないアイデアや新しい事業を生むことがあります。
そして、事業が二転三転するときほど、多様な個性と強みが経営者を支える力になります。
社内の力を最大限に生かすとともに、必要に応じて社外の知識や経験も取り入れる。経営者がすべてを一人で抱え込まず、多様な能力を組み合わせることも、これからの経営に必要な考え方ではないでしょうか。
参考資料・出典
※ドラマへの評価・経営上の考察は執筆者の意見です。


