「下請法」から「取適法」へ 手形は禁止|中小企業の発注・受注実務を点検

2026年1月施行の取適法について、価格交渉、手形払いの禁止、振込手数料、発注内容の明示を経営者の立場から解説しました。10月9日の公正取引委員会による実際の勧告事例も取り上げています。 財務

有限会社ジャムティガ 代表/コンサルタント

「取引先から値上げを求められたが、どう対応すればよいか」「発注書はメールで済ませているが問題ないか」「振込手数料を差し引く慣行は続けられるのか」。こうした日常的な取引の判断が、2026年から大きく変わっています。

従来の下請法は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に改正され、2026年1月1日から施行されました。価格協議に応じない一方的な代金決定や手形払いなどに新たな規制が設けられ、対象となる取引・事業者の範囲も広がりました。制度が始まってから約10か月が経過した今、経営者に必要なのは、法律の名称を覚えることよりも、日々の発注と支払いの運用を見直すことです。

この記事でわかること
  • 取適法で特に変わった価格協議と支払いのルール
  • 発注側・受注側がそれぞれ確認したい実務ポイント
  • 社長が30分で着手できる取引管理の見直し方

取適法は「大企業だけの問題」ではありません

取適法は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託などの一定の取引を対象とします。改正では、従来の資本金基準に加えて従業員数による基準が設けられ、特定運送委託も対象に追加されました。つまり、取引相手の会社が有名企業かどうかではなく、取引の種類と、双方の資本金・従業員数などの関係で適用を判断します。

発注する会社も、別の場面では受注する会社になります。自社がどちらの立場になる取引があるか、外注先・取引先の一覧から確認してみると、見落としていた契約が見つかることがあります。

取引先と書類を確認しながら価格や発注条件を協議する経営者のイメージ
取引条件の確認は、契約書だけでなく、日常の協議や発注方法まで含めて考えることが大切です。

発注側が見直したい3つの実務

1.価格改定の申し出には、協議の機会を設ける

原材料費、物流費、労務費が上がっているとき、受注先から価格の見直しを求められることがあります。取適法では、受注側から協議を求められたにもかかわらず、これに応じず一方的に代金を決定する行為が禁止されています。協議の結果、必ず相手の希望額を受け入れなければならないという意味ではありません。重要なのは、相手の説明を聞き、必要な資料を確認し、判断理由を伝える実質的な協議を行うことです。

経営者が確認したいのは、現場担当者が「今年は予算がない」の一言で価格交渉を終わらせていないかという点です。価格を据え置く場合も、協議した経緯をメールや議事メモに残しておくと、社内の判断基準が明確になります。

2.支払手段・期日・振込手数料を点検する

2026年1月1日以降に発注された取適法対象取引では、手形による代金支払いが禁止されています。また、電子記録債権や一括決済方式であっても、所定の支払期日までに代金相当額の現金を得ることが困難な方式は問題となります。代金の支払期日は、原則として物品等の受領日から60日以内のできる限り短い期間で定める必要があります。

さらに、対象取引で振込手数料相当額を代金から差し引く運用は、減額に当たります。取引先との過去の合意があるからといって、そのまま続けられるわけではありません。経理担当者と支払データを一度照合しておきましょう。

確認する項目従来ありがちな運用見直すポイント
価格交渉値上げ依頼に回答せず据え置く協議日時・資料・回答理由を記録する
支払手段手形で支払う対象取引は手形払いをやめ、現金化条件を確認する
振込手数料受注先の負担として差し引く対象取引での減額を停止し、支払設定を修正する
発注内容口頭発注や後日の条件連絡発注時に必要事項を明示し、記録を保存する

3.発注内容を明示し、変更履歴を残す

発注時には、委託内容、代金額、支払期日など法定の必要事項を明示する義務があります。改正後は、受注側の事前承諾がなくても、電子メールなどの電磁的方法による明示が可能です。ただし、メールで送れば何でも足りるわけではなく、必要事項がそろっていることが前提です。発注内容の変更や追加作業が発生したときも、金額と納期を確認し、履歴が追える形にしましょう。

計算機と売上グラフ、請求・支払資料を机上に並べて確認するイメージ
支払条件の点検では、請求書だけでなく、振込データや支払予定表も確認します。

受注側は「価格の根拠」と「記録」を整える

取適法は、受注する中小企業にとっても取引条件を見直すきっかけになります。値上げのお願いをするときは、「物価が上がったから」だけではなく、材料費・外注費・人件費・物流費の変化を示し、希望する単価や適用時期を具体的に伝えます。月次の原価資料や見積書の改定履歴を用意しておくと、協議が進めやすくなります。

支払条件については、入金予定日、支払手段、振込手数料の控除有無を確認します。交渉の申し出と回答は、日時がわかるメールや議事録で残しておきましょう。こうした記録は、取引の透明性を高めるだけでなく、経営者が自社の粗利益や資金繰りを把握するためにも役立ちます。

実際に勧告も出ています――2026年10月の事例

公正取引委員会が2026年10月9日に公表した事例

給湯器等の製造販売会社に対し、対象となる受託事業者11者への代金計2,282万3,013円について手形を交付し、支払期日を過ぎても支払わなかったことなどを理由に勧告が行われました。振込手数料相当額の差し引きや、金型等の無償保管に関する問題も指摘されています。

これは、発注書の形式だけを整えればよいという話ではありません。価格をどう決めるか、代金をいつ・どう支払うか、追加負担を誰が持つかという日常業務が、経営上の管理事項になっていることを示しています。

成長と取引先との協力関係を象徴する積み木とビジネスパートナーのイメージ
適正な取引条件は、取引先との関係を維持し、事業を安定させるための土台になります。

社長が30分でできる「取引条件チェック」

  1. 主要取引先を5社選ぶ。 発注先・受注先の両方から、取引額の大きい相手を選びます。
  2. 対象取引か確認する。 取引の種類と双方の規模を、公正取引委員会の資料に照らして確認します。
  3. 発注と支払いの流れを見る。 発注書・メール・支払予定表・振込データを並べます。
  4. 価格交渉の記録を点検する。 申し出に対する回答と、社内の決裁手順を確認します。
  5. 担当者と改善期限を決める。 手形・手数料・明示事項など、優先順位の高いものから修正します。

取適法への対応は、法務部門だけで完結するものではありません。営業、購買、経理、経営者が同じ取引条件を把握していることが大切です。特に少人数の会社では、社長が判断してきた慣行を一度見える化するだけでも、改善の糸口が見つかります。

適用に関する留意事項

取適法の適用は取引類型や資本金・従業員数などによって異なります。建設工事の請負など、別の法令が中心となる取引もあります。個別契約の判断や法的対応は、公正取引委員会の最新資料を確認し、必要に応じて専門家へ相談してください。本文は2026年10月31日時点の公表資料に基づきます。

まとめ――取引ルールの整備は、利益と資金繰りの管理につながる

取適法の改正は、発注側にとっては取引管理の見直し、受注側にとっては価格や支払条件を話し合う機会になります。会社の利益を守るには、単価の交渉だけでなく、発注条件、支払期日、原価の把握を一体で考えることが重要です。まずは主要取引先の条件を点検し、担当者ごとに異なっていた運用を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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参考資料(各機関の公式発表)

  1. 公正取引委員会「取適法」公式ページ(2026年1月1日施行)
    https://www.jftc.go.jp/toriteki/
  2. 公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
    https://www.jftc.go.jp/toriteki/toriteki_qa.html
  3. 政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!」(2025年11月18日)
    https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
  4. 経済産業省「サプライチェーン全体での支払の適正化について」(2025年11月11日)
    https://www.meti.go.jp/press/2025/11/20251111007/20251111007.html
  5. 公正取引委員会「パーパス株式会社に対する勧告について」(2026年10月9日)
    https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/oct/261009_chubu_toriteki.html